触れることもできない君に、接吻を

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俺は足早にある場所へと向かっていた。

その場所にいく途中、俺は商店街を通っていた。
そのとき、張りのよい声が聞こえた。
驚いてその声のする方向を振り向くと、俺がよく母さんに買い物を頼まれる魚屋さん――裕大のお父さんがいた。

「よう、久本さんちの真人くんじゃないか。裕大とは一緒じゃないのか?」
「ああ……色々とあって、今日は一緒じゃないんです」
「そうかい。まあ、俺の裕大とよろしくな!」

あなたのところの裕大くんは、俺を破滅に陥れようとしているようです。
なんて、口が裂けても言えない。
俺は「はい」と愛想笑いを浮かべて答えると、裕大のお父さんの返事も待たずにそこから去った。

商店街を過ぎると畑が広がる田舎風景に変わる。
俺はそんな平地にぼんと突っ立っている山の前で、立ち止まった。
目の前には長い階段が俺を見下ろすようにしてある。

俺は深呼吸をすると、一気にその階段を登り始めた。
前に段数を数えたことがあるけれど、百三十五段あった。
おまけにこの階段は急なので、初めてこの階段を登る人は必ず「怖い」などとぼやく。
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