触れることもできない君に、接吻を
きっと俺が今由梨にあっても、何もしてあげられないだろう。
励ますことはおろか、傷付けてしまうかもしれない。

俺は頭を掻き毟った。

一体どうすればいい?
きっと俺の様子は、一発で見透かされるだろう。
だけど絶対にいじめられていることは言いたくない。

「だけどなぁ……」

約束したんだ。
だから行かなくては。

「……破ったら、もうお終いだよな」

俺はだるさが残る体を起こすと、一段目を踏み締めた。

「きっとなにか言われるんだろうな……」

そして重い足をあげた。
どっと疲れが襲ってくる。

由梨には悪いが、やはり今日は辞退するべきかもしれない。
だけど、と俺は自分に言い聞かせた。

好きな女の約束を破るっていうのは、一番残酷な行為なんだよな。
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