美しいあの人
「そうですね、仕事ですね」
「明日は祐治をそっちへ返してやるからそれで我慢しろ。
ある程度進んで先が見えたら店に出勤していいから」
「わかったわよ……」
確かに店に出るよりも祐治が帰って来て顔を見せてくれるほうが嬉しい。
松井さんがそれをわかって言っているのが腹立たしかった。
「できている分だけ、あとでメールで送っておいてくれ」
「わかった……」
「頼むよ、西条祐治先生!」
電話を切られてから、壁に貼ってあるカレンダーを眺める。
祐治の字で大きく「連載第一話目締切!」と、二週間後の日付のマスに書かれている。
小人さんがしっかり働かなければ、この締切は守れない。
大丈夫。
この前の短編だってなんとかなった。
明日祐治が帰って来て、美しい顔を見せてくれたら、きっとあたしはまた頑張れる。
だって、祐治のために書いているんだから。
< 114 / 206 >

この作品をシェア

pagetop