美しいあの人
ドアを開けると、千鶴さんがにこやかに迎えてくれた。
「よかった。これ取りにきたんでしょう?」
千鶴さんの手の中であたしのライターがきらきらと輝いていた。
店に出ているあたしみたいにまがい物のきらびやかさ。

スツールに腰掛けようと店の中へ身体を滑らせて、
先客がいることに気がつく。
ソファ席には、昨日と同じように美しい人が座っていた。
嬉しかった。

ちょっと悩んでから、思い切って声を出してみる。
千鶴さんにもその人にも話しかけてるふうに、
いつもお店でやってる「エリはみんなに話してるんです」みたいな感じで。

「なんだー、あたしひとりじゃなかったんだ。
今日はひとりできたしお邪魔しちゃってもいいですか?」

美しい人は読んでいた本からちょっとだけ顔をあげて、
あたしが声をかけた対象がその人でもあるということに気がついた。

けれど、どうしたらいいか分からないといった感じで彼は曖昧に笑う。
千鶴さんはその曖昧な笑顔と、
内心とてもどきどきしているあたしを後押ししてくれるように笑った。

「そうね、私も二人一緒に座ってくれると飲み物運ぶのも楽でいいわ。この子エリちゃんって言うの。お邪魔させてあげて?」

美しい人はちょっと困ったような笑顔で、
声は出さずに向かい側のソファを手で指し示してくれた。

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