美しいあの人

芙美子さんがハンカチで涙を拭う。
松井さんが、いらだたしげにビールを飲んだ。
「私も……気づかなかったのよ」
「どうしてよ。普段一緒にいるのは芙美子さんじゃないの」
芙美子さんの泣き声にいらついてしまった。

黙っていようと思ったが、思わず疑いを口に出してしまう。
「知っていて、祐治がその気になるようにしむけたんじゃないの」
芙美子さんが目を見開いた。
その目は、正直にそんなことはしていないと語っている。
松井さんがため息をついた。
「そんなんじゃないよ。そんなことしてなんになる」
「まったく連絡がつかないの。
携帯も家に置いて行ってしまって、最初にエリさんところに行った時とは訳が違うわ」
「俺だって芙美子に聞いてから、ずっと説得してたんだ。聞きやしなかった」