美しいあの人
松井さんも芙美子さんも、
祐治ばかりかあたしまでも失ってしまったら仕事を減らすことになってしまう。
芙美子さんはすでに西条祐治という商品を元手にして会社を作っていたし、
松井さんも売れっ子作家を抱えていることで仕事上での地位がそこそこあがっていた。
もっともあたしも、書くという仕事を失ったら食べていけなくなるのだ。
祐治本人がその場にいなくても、
あたしたちは「西条祐治」という存在にそれぞれ助けられていた。

そんな中、あたしはひとつのことが気にかかっていた。
祐治がどこにいるのかわからないけれど、
西条祐治は小説を発表しつづけている。
祐治本人は書いていないのに。
もっとも最初から祐治は小説なんか書いてはいないのだけれど。
< 187 / 206 >

この作品をシェア

pagetop