美しいあの人
祐治は、あたしがいないと書けないと言ってくれている。
ならばあたしは書こう。
旅先で自分が書いたと思い込んでいるものを読んで
「エリがいないとうまく書けない」
と祐治が思っているのなら。

それはあたしがうまく書けていないということだから。
西条祐治はあたしと祐治、ふたりでやっと作家になれる。
あたしが書いて、祐治がそれを良しとする。
それが西条祐治という作家なのだ。
あたしひとりでは書けない。
やっぱり祐治がいないとダメなのだ。

ハガキはその後も、仙台、新潟と続いて、
このところは群馬から絵ハガキではないハガキが週に一通のペースで届いている。
書いてある内容はいつも同じようなもの。
「エリへ。
早くエリに会いたい。
私は、エリと一緒にいたから言葉をあふれさせることができていたのだと、
離れてやっと実感しています。
早く帰りたいけれど、まだ勇気が出ません。
また連絡しますね」
一昨日届いたはがきを読み終えて、ファイルを閉じる。

「あたしも会いたいよ祐治。早く帰って来て」
祐治が戻ってきやすいようにするためにも、あたしは仕事をしなくちゃいけない。
祐治があたしを必要としてくれているのと同じように、
あたしも祐治を必要としているのだ。

きっともうすぐ帰ってくる。
そうしたら、やっとあの美しい人はあたしだけのものになる。
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