美しいあの人
最初のハガキが北の方角から届けられたときはどうしたものかと思った。
連絡先など書いておらず、生きているから心配するなとだけ書かれている。

芙美子さんと松井さんに相談しようかと思ったが、
なんとなくためらわれてそのままにしておいた。
また連絡するというのだからきっと来るだろうと踏んで。

そうしたら半月くらいして十和田湖の絵ハガキが届いた。
それを読んで、あたしは安心したのだ。

ああ、祐治はまだ自分が小説を書いていると思っている。
ならばよし、問題無しと思った。
あたしは祐治の小人さんであり続けようと決意した。

松井さんがあたし自身を作家として独立させたいと思っているのはわかっていたし、
祐治の行方がわからなかった間は、実際あたしも揺れていた。
それこそ松井さんの提案で損をしたことはなかったから、
松井さんの言うことを聞いたほうがいいのではないかとも思った。

けれど、祐治からの連絡であたしの揺らぎはなくなった。
戻ってくるのを待とう。
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