美しいあの人
松井さんはあたしの顔を見るなり
「なんて顔してるんだ」
と驚いた。
そんなにひどい顔をしていたつもりはないのだが。
「なんか変? メイク失敗したりしてる?」
困った顔をされた。
「そんな疲れた顔を見たの初めてだ。なにか悩みがあるなら話くらいは聞けるんだぞ」
心配されるのも申し訳なくておどけてみる。
「ん〜。強いて言うなら恋の悩み?」
「アホか」
カルビ、ロース、タン塩、どんどん肉が焼かれていく。
松井さんは焼けたはしから次々とあたしの取り皿へと乗せていき、いいから食べろと勧める。
あたしは勧められるままに食べ続けた。
おいしい。やっぱり食事は誰かと一緒の方がいい。
あたしが食べているかどうかを見ているので、松井さん自身はあまり食べていない。

心配してくれて悩みを聞いてくれるというのは嬉しいけど、なんと言ったものかもわからない。
自分でもなんだかわからないのに。
「それだけ食べられるなら、健康を害してるわけじゃなさそうだ」
ようやく松井さんが肉を焼く手を止めた。
「なんか心配させちゃってごめん」
「さっきは本当に驚いたんだ。
しばらく店にも行ってなかったから気になってて、
それで呼び出してみたら凄く疲れた顔をしてた」
松井さんになら相談してみてもいいかなとちょっと思った。
お客さんに恋の悩みを相談するなんてホントはいけないことだし、
それで見切られてしまっても仕方ないけど、
松井さんならちゃんと話を聞いてくれそうな気がした。
< 25 / 206 >

この作品をシェア

pagetop