Nocturne




私は弱い。
弱いからこそ、あの日も逃げたんだ。

最低な言葉とともに、心にもないことを言って。

決して離さない、離したくないと思っていた、何物にも代えがたい最愛の人の手を離してまで。

私は私を守った。
そんな私が、彼ともう一度会うだなんて、そんなことできない。

…――――というのは建前で、言い訳にしか過ぎないんだ。
ただ、私自身が会いたくないだけ。

今また、私は彼と会ってしまえば、同じことの繰り返しになってしまうだけ。

私は彼に会わないようにする、ということはできても、彼を目の前にして拒否するということはできないから…。




「だから、今回の高柳グループへ引き抜いてくださるというお話も、お断りさせていただきます」

「…それでいいのかね」

「はい、後悔はしません」




私がそう言った瞬間、



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