Nocturne




…きっとお母さんはこのことで何度も泣いたんだと思う。

―――罪悪感、からだろう。


だから、お母さんやお父さんは私が『H大に行きたい』と言った詳しい理由も聞かずにOKを出してくれたんだと思う。



そんなときに、お母さんは言った。




『…もし、もしも。
もしもまた、皇くんと運命で出会って、また同じことになったら。
その時は――――』




きっとお母さんは、



『その時は、迷わず自分のことを優先しなさい。
私たちは、どうなってもいいの。
―――樹里の幸せを誰よりも願っているんだから…』




ずっと後悔していたのだろうか。

『早く、皇くんとまた連絡取りなさい。お父さんのことは心配しなくてもいいから』って。

きっとすごく言いたかっただろう。
けど、言えなかったんだろう。

私が良かれと思ってしたことが無駄になってしまうと思ったから。


私が、勝手にそんな決断をしてしまったから。
…きっと親としては、子供にそうやって、自分を犠牲にさせてまで昇進したい、何て親はいないと思うし。

…そう考えるとまた私は親のことを考えてなかったな。
そう思うからこそ。

私は、今度こそ間違えないから…お母さん。




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