大海の一滴

(今度、自由に食べさせてやるよう、美絵子に添えてやるか)
『あなたは娘に甘すぎるのよ』
 ぱっと、頭の中で剣幕の美絵子が浮かんだ。

 運ばれて来たクリームソーダにぷかりと浮かぶ半円形のバニラアイスを細長いスプーンで突付きながら、達之は苦笑した。


「私、本当は炭酸って苦手なんです。喉を通る時に少し痛い感じがするから。でも、何故か、メニューにあると飲みたくなるんです」

 言いながら目の前の彼女も、丁寧にアイスを掬って少しずつ口に運んでいる。

 
 そう言えば、昔美絵子も同じようなことを言っていた気がするな。



(それにしても)

 まるでノスタルジーな洋画のワンシーンのようだ。

 秋野月子の所作はしなやかで美しい。
彼女の少しひやりとした微笑みは、今となってはオードリーやジュリーアンドリュースを彷彿とさせる。
 抑揚を抑えた喋り方まで、王侯貴族特有のマナーにすら思えて来るから不思議である。
 その彼女が、いかにも身体に悪そうな緑色のソーダを飲む姿は、似通ったパズルのピースをはめ違えたような、どこかちぐはぐな感じがした。



「少し間が開きましたが、続けますね」

 ふと彼女が顔を上げる。


(あっ)

 無遠慮な視線を投げかけていた達之は一瞬バツの悪さを感じたが、彼女はとかく気にしていない様子だ。

 やはり、繊細な顔とは裏腹の大雑把な性分なのだろうか。
それともこれが彼女自身の言う、表情が足りないせいなのだろうか。




「ここからは、いくつか藤川さんに質問をしながら進めて行きたいと思っています。ただ、この後の話は私の個人的な憶測に過ぎません。そして、藤川さんに対して不躾な質問と内容になると思いますが、宜しいですか?」



(オレにとって不躾な質問?)

 達之は驚いた。








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