大海の一滴

 ぴくり。

これは、かおりちゃんの動き。



 渡辺さん一味は、片っぽの運動靴を貢ぎ物のように教壇に差し出した。

 ほくほく。これは、渡辺さんの顔。


「ありがとう、渡辺さん。どこにありましたか?」
 と、麗ちゃん先生。

「はい、高橋さんのロッカーの奥に挟まってました~」
「高橋さんったら、おっちょこちょいね」
「私達、高橋さんのことよく知っているけど、前にもこういうことあったよね~」
「あった、あった~」
 これは、愉快な仲間達。


「なんだよ、人騒がせな奴」
「本当だよな。体育の時間減っちゃったじゃん」
 ひそひそ、ざわざわ。

「せんせ~い」
 優等生らしく、渡辺さんが挙手。

「なんですか?」
「悪気は無いにしても、みんなの体育の時間を奪ってしまった高橋さんは、謝るべきだと思います」
 みんなが、かおりちゃんに注目した。

「んなこと、どうだっていいだろ」
「そうだよ。見つかって良かったってことでいいじゃん」
 タケシ君&アリサちゃん。

「でもな~」
「だよな~」
 ひそひそ、ざわざわ。

「まずは、席を元に戻して下さい」
 一味違う麗ちゃん先生。

 がたがたがた、ズズズズズ。
 全員着席。



「渡辺さん、あなたの言うことも一理ありますね」
 不敵な笑みを浮かべる渡辺さん。

「ですが、その前にやることがあります」
 麗ちゃん先生は、唇をきゅっと閉じた。


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