ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「ミツ来年卒業だよな?」
「そうっす。」
「就活とかしてんの?」
「・・・してないっす。」
「ふーん。しといたほうがいいぞー、就職は。」
「・・・そうっすね。」
「まあ、ミツなら卒業後もウチで働いてくれていいけど。」
 ミツは店長の顔を見た。

「バイトだけどな。フリーターやるってんなら言ってくれ。」
「・・・・」
「じゃあ、おれあっちで検品始めてっから、よろしく。」
店長はミツを残して、いくつかあるデスクのほうへ行った。
これを全部1人で運ぶのか、とミツは低くため息をつく。

卒業まであと半年。
高校三年生の時のプランとしては、
東京でひとり暮らしをして
専門学校でオシャレな友人たちとオシャレな映像を作って、
将来は有名なミュージシャンのPVを作る、
そんな幻想を描いていた。

この1年半でミツが学んだのは、
洗面台は小まめに髪の毛をとらないと
詰まってしまうということと、
生きているだけでお金がかかるということと、
自分がどれだけ特別じゃない人間なのかということだ。

全部、映画の中の話だったんだ、
ミツはそう思った時に世界が遠くへ、
正確には正しい距離感に戻っていくのを感じた。

レンタルビデオ店でバイトをすると決めた時も、
映画やCDアルバムを安く借りて、
卒業までに全部観てやろうと思ったからだった。

残念ながらあと半年では、
こんな小さなレンタルビデオ店の品揃えさえも
制覇できそうにない。

こうやってダンボールで次々に新作が納品されるのだから、
今では仕方がないと思っている。
どれだけ世の中には才能に溢れたやつがいるのだ。
メジャーものしか置かないこのレンタルビデオ店には納品されない、
このダンボールの山の向こうには
もっともっと名前の売れないやつらが控えているんだ。

これから、どうしよう・・・
山積みになったダンボールから視線をそらし、
漠然とミツは天井を見上げた。

光量の少ない蛍光灯がミツを照らしている。
蛍光灯の端は黒ずんで、二本並んだうちの一本は
今にも消えてしまいそうな瞬きのように点滅しかけている。
新しい蛍光灯は倉庫にあったかな、とミツはバイトらしく考える。
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