ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「チッ!」
ミツに付き合って休みなく動き続けるマッキントッシュがフリーズし、
ミツはそのまま大の字に仰向けになった。
白い薄ぼやけた光を放つ、二重丸の蛍光灯。
目を閉じると緑色に残る。
洋二と羽月のことが頭をかすめた。

 遊び以外で初めて体験した二度の徹夜が明けた朝、
フラワー・オブ・ライフのライブ映像は、
プロモーションビデオとして完成した。
ライブの前とライブの後にメンバーの演奏していない時の映像や
風景をつなぎ合わせた。

これは、ミツにとって学校の課題以外で作った初めての作品になる。
誰かに言われて作ったものではない、初めてのもの。

 完成を洋二に伝えると、洋二は真剣な表情でうなづいた。
お被露目は、ミツの部屋でメンバー全員を集めてすることになり、
ミツは大慌てで部屋に散らばったコンビニ弁当のガラやら、
ペットボトルやらを拾い集めて、おそらくレミが最後に来た以来に、
六畳間に掃除機がかけられた。

 午後八時。フラワー・オブ・ライフのメンバーが狭いミツの部屋に、
月曜日の病院の待合室のように膝をつきあわせて座っている。
 ミツは緊張してゴクリとつばを飲んだ。
「じゃあ、さっそく見よう。」
 洋二の一言でミツはパソコンのマウスを動かし、
再生ボタンの三角をクリックした。

 フルスクリーンモードに切り替え、モニターいっぱいに映像が流れる。
もう何百回と聴いたフラワー・オブ・ライフの曲と、
同じく何百回と再生を繰り返した映像が始まる。

洋二も、サトシも裕太も羽月も黙って見ている。
かなりのボリュームで再生しているのに
ミツは静寂で気が遠くなりそうだった。
膝の上で握り締めた拳の中で爪が手の平に突き刺さって
今にも血が滲みそうだ。

 十分弱の映像が終わって、モニターの中でフラワー・オブ・ライフは
四分の一程度の四角い画面に縮んだ。

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