ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
ミツは恐る恐るメンバーを見る。
「ミツ・・・」
洋二が第一声をあげる。
ミツは思わずビクっと体を動かせる。
「すっげえよ!ミツ!すんげえ!」
 洋二はミツの肩を両手で掴んで前後に揺らした。

細い切れ長の目が無くなってしまいそうなほど
くしゃくしゃになった笑顔の洋二が遠くなったり近くなったりするのを
ミツは見た。

声がうまくでない。
舌がカラカラに乾いて口の中で張り付いてしまった。

 サトシがいつまでも揺さぶる洋二をミツから引き剥がして、
やっとミツは口を開いた。
「ヘンじゃなかった・・・?」
「ヘンなもんか!かっこよかった!すっげえかっこよかった!」
洋二はまたミツに手をかけようとする。

「おれもビックリした。こんなふうになるとは、思ってなかった。」
 いつも冗談ばかりが先に口を出る裕太が、ぽかんとしたまま言う。
隣で羽月がうんうんと頷く。

ミツは全身の血液がおしっこみたいに体から
出て行ってしまうんじゃないかと思うほどの脱力を感じた。
「よか・・・った。」
「ありがとうな、ミツ。」
 洋二の真剣な視線がミツに向けられる。

「これってさ、おれらのオリジナルの曲だからさ」
 今まで黙っていたサトシが口を開いた。
力強い黒い瞳が真っ直ぐミツをとらえて言葉を続ける。
「楽曲の権利はおれらが許可すればいいわけだ。」
「まあ、そうだね。」
 裕太は察したようににやりと笑う。

洋二は何がなんだかわからないといった顔でサトシを見つめる。
同じ顔をしたミツの目が丸くなっていく。
「せっかくかっこいいのできたんだ。どっかコンペに出してみたら?」
「お、おおおお!」
洋二が細い目を見開いて声を漏らす。
おれの作った映像をコンペに出す。
ミツは、この映像を作り始める前も完成した今でも、
そんな考えは浮かばなかった。

羽月までが、すごいすごい、とはしゃいでいる。
「いいの?サトシくん・・・」
「ああ、もし賞金とかとったら奢ってくれな」
「ありがとう、ありがとう・・・」
 ミツは目の奥がジンと熱くなるのを力をこめてこらえた。

洋二が言葉もなく、ミツの肩を抱いた。
ミツは俯いて、こらえた。


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