ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
 ギーン、ギギーン、シュッ、ギギーン。

ミツは顔をあげた。

また、この音だ。
だから窓を開けるのは嫌だったんだ。
といっても閉めたところで
多少音が小さくなったような気がするだけなのだが。

音の正体はわかっている。
一週間前、隣の部屋に引っ越してきた男。
やつはバンドマンらしくギターの練習を欠かさない。
しかも深夜に。時には昼間にも。
要は時間の区別なしにということだ。
アンプにつなげてギャンギャン鳴らすわけではないのだが、
このボロアパートの薄い壁ならアンプなしで十分、騒音に値する。

一度、文句を言おうと思ったが、
やつは見た目もバンドマンのイメージを崩さない。
赤っぽく染めた髪が目を隠す。とがったアゴに薄い唇。
目が隠れているからどんな表情かよくわからなかったが、
早い話がビビって文句が言えなかった。

ミツはサッシの途中で何度かひっかかる窓をなるべく音がたつように
勢いをつけて閉め、テレビをつけた。
お笑い芸人がクイズをやっている。

「答えになってへんやん!」

 ギーン、ギギーン、ギーン、キュッ
「わははははは」

ギギギーン、ギーン

ヴーヴーヴー

デニムのポケットに入れっぱなしの携帯が鳴って、
ミツは腕を伸ばして脱ぎ捨てたデニムから携帯を取り出した。

「・・・もしもし?」

電話の相手はミツが初めてまともに付き合った女の子・レミ。
まともというのは、
高校生の時に告白してお互いの気持ちは知ったけど、
どうしていいのかわからないうちに
言葉を交わすことがなくなってしまった女の子がいたからだ。

レミは専門学校の友人の紹介で知り合って、
春の終わりに付き合い始めた。

ファッション専攻だけあっておしゃれ。
でもミツの専門学校の雰囲気からするとかなりしっかりした女の子だ。
恋人らしく他愛もない会話をして、
明日ミツの家で夕飯を食べる約束を確認して電話を切った。

ギギーン、ギギーン・・・
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