ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
真っ暗なステージに出て行く四人。
サトシ、裕太、羽月、そして洋二の順番で出て行く。

洋二はステージの手前で振り返り、ミツを見た。
歌っている時のような真っ直ぐな視線。
切れ長の目から放たれる鋭い眼光がふと緩む。
四角く切り取られたファインダーの中で洋二の口元が上がる。
洋二は笑っていた。
いくつもファインダー越しに見てきた、
仲間とふざけ合う時の笑顔ではなかった。

音楽のこととなると我を忘れてしゃべった、あの笑顔でもなかった。
切れ長の瞳が、何度もそうしてきたようにそらされた。
赤茶色の髪がさらにそれを隠した。
口元だけが笑っていた。
寂しそうに、悲しそうに、何かを諦めたように。

やがて、口元の笑みも消え、薄い唇が少し開いたが、すぐに閉じられた。
ミツは何か声をかけようと思ったが、洋二はくるりと向き直って
ステージへ出て行った。

フラワー・オブライフの最後のステージ。
ミツは真っ暗なステージへ、洋二が吸い込まれていくのを見つめていた。

最初に見た時と同じように、ライトが煌々と四人を浮かび上がらせて、
裕太のドラムのスティックが鳴った。
ミツは客席側から撮影するために、舞台袖を離れた。

女の子たちが洋二の名前を呼ぶ声が聞こえる。
フロアは観客で埋まっていて、変わらない洋二の高音がかすれた歌声が、
せつなく響く。

四人が紡ぐ音が、観客を沸き立たせる。
ミツは観客たちにもまれながら、時が止まることだけを祈っていた。

度々、さっきの洋二の表情が浮かんできた。
目の前で歌う洋二の姿とは重ならない、弱々しい姿。
洋二は、あのボロアパートの薄壁の向こうで、
幾度もあんな顔をしていたんだろうか。
その度、ギターを鳴らしたのだろうか。

ミツはカメラを持つ腕に力を込めた。
洋二の両腕から零れ落ちていくものを、ミツに繋ぎ止めることはできない。
ファインダーが揺れて滲む。
洋二に向かって伸びる何本もの腕も、何もすくいあげることはできない。
< 46 / 61 >

この作品をシェア

pagetop