ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
解散ライブが終わると、ミツは四人と会うこともなくなっていた。

サトシは実家の内装工事を請け負う会社で、
次期社長として修行し始めたという。
金回りの良さと育ちの良さそうなサトシの人格に、今さらながら納得した。

裕太は実は、結構いいとこの大学の工学部で、
就職活動のために髪を黒く染めたらしい。
ちょっと前までバンドマンだったくせに、と相当からかわれたと
羽月に聞いた。

羽月からは、思い出したようにメールが来る。
「元気ぃ?」とか「単位やばい。」とか。
サトシが忙しくなったことを愚痴ることもあった。
「留学したいかもしれない。」と相談された。
おそらくサトシにも裕太にも同じメールを送っているんだろう。
洋二は、洋二には送っていないかもしれないが。

洋二。
洋二はバイトに明け暮れているのか、
薄壁の向こうからギターの音がすることはなくなっていた。
真っ裸でシャワーを借りにくることも、
ミツの実家から送られてきたカップラーメンを食べに来ることもない。

何も聞こえなくなった薄壁と向かい合って、ミツは映像を編集し続ける。
林から電話があって、就職が決まったと報告された。
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