ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「ルーズショットって知らないかい?」
守屋は自分の手帳を取り出して、ボールペンで四角を描いた。

「ロングショットとか、バストショットとかあるだろ。」
「はい・・・。」
ミツは守屋が描いた四角の中に画コンテが出来ていくのに気づいた。
「ルーズショットっていうのはね、主役の人や物の周辺の空間を十分に残して撮影するってこと。」
「へえ・・・」
「なんだい、先生教えてくれなかったのかい?」
ミツは講師を見た。
「ふふふ、僕は教えたよ。」
講師は優しそうな顔で笑った。
「すみません・・・。」
ミツは恥ずかしくなって鼻をかいた。
守屋は再びまっすぐにミツを見据え、
「うまく収まらなかったら、動いてみろ。」
 講師も真剣な眼差しでミツを見ている。

「離れてもいい、近づいてもいい。人や物の位置を変えてもいい。」
ミツは守屋と視線を合わせた。
「きっと君たちの周りには、十分な空間が足りかなったんだ。
もちろん映像的にもね、アップばかりで変化がない。」

ミツは、狭いファインダーの中で叫ぶ洋二の姿を思い浮かべた。

「でもね、これ伝えたい、これ残したいってのはぶれないよ。
聞こえるように言わなきゃだめだ。」
守屋はますます熱く語った。
驚いた顔で守屋を見ているミツに、守屋は色黒の顔から白い歯を見せ、
ニッと笑った。

暖房の効いた部屋に嗅ぎ慣れないコーヒーの匂いが漂う。
遠くで学生たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
ミツの手のひらはじっとりと汗ばんでいた。
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