ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
ミツはリノリウムの廊下を駆けていく。
いくつもの輪っかが背中で揺れる。
キュ、キュ、とスニーカーが音を立てる。
軍手で思いっきり拭った目尻がヒリヒリと痛い。
なぜだか口元が緩んでしまう。

洋二の歌声がまだ、微かに聴こえてくる。


  追いかけて 好きといえ
  おまえはいつも 後悔ばかり
  想像とは少しずつ ズレていく現実

  でもまだ どうにかなるんじゃないかと
  根拠のない希望にすがるんだ

  おまえが 失くしたくないものは 一体何なんだ?
  いつか このままでいられなくなる日を思うと
  胸がつぶれてしまいそうになるんだ

  スローモーで 夢見がちな日々が
  突然 倍速になったんだ
  これが現実かと 妙に遠く感じるんだ

  追いかけて 好きと言え
  たとえ後悔しても おれは 言わない

  守れたんだろうか? 
  それとも失ったんだろうか?
  まるで 全てが 夢だったんじゃないかと思う

  楽しくなくっても 笑っていられるようになったんだ
  おまえも 大して変わらないんだろう

  終わりだけが いつもある
  でも 笑い飛ばし合いたいんだ
  情けない話を 聞かせて欲しい



                      完
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