ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
 ダッシュの甲斐なく、数十分後、ミツは一人でアパートに戻った。
じっとりと汗で体が湿っている。
それでも少しは涼しくなった風がタンクトップから出たミツの肩に触れる。
ペンキの棘が刺さった手のひらがジンジンする。

 砂利を踏んで、階段の下まで来たミツは、人影に気づいて顔をあげた。
エレキギターを抱えた赤っぽい茶髪が電灯で浮かび上がっている。
大きくロゴの入った白いよれたTシャツの首元に銀色のドッグタグが光る。
ださいスウェット生地のハーフパンツから
月のように白く丸い膝小僧を見せて、階段に腰をおろしている。
散髪中のオッサンのサンダルをつっかっけてきたみたいな足元。

 ギーン・・・

男はギターを鳴らしてみせた。
「おまえのせいで、余計な恥かいたよ。」
 ミツは階段の下から呼びかけた。
男はふふんと笑った。
顔をあげた男は、ミツを見て恥ずかしそうに目をふせた。

九月の終わり、卒業まであと半年。
これが、ミツと福原洋二・通称洋二との出会いだった。
< 9 / 61 >

この作品をシェア

pagetop