§魂呼びの桜§ 【平安編】
なさぬ仲の母だった。


幼い頃に、弟を産んですぐ他界してしまった実の母。


その後喪が明けるか明けないかのうちに、父は新しい北の方を迎えた。


子を望めぬ継母は、姫と弟君をわが子のように慈しんで育てた。


姫には姫たるべき教養を与え導いたのだ。


和歌も、琴も、書も……。


すべて継母が教えてくれた。


けれどその継母も、姫が袴着を迎える頃には、床に伏すことが多くなっていったのだ。


姫は、許される限り、継母の枕元に侍った。


母が高熱にうなされている日は、夜通し寝ずの番をしたこともある。


この人がいたからこそ、今の自分がある。


この人が、女として生きていく道を指し示してくれた。


この人こそ、わたしの“母”なのだ。


だから、姫は感謝の思いを込めて看病したのだった。


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