§魂呼びの桜§ 【平安編】
姫はそれがさぞ可笑しかったのだろうか。


扇に顔をうずめ、しばらく肩を揺らせていた。


女房は呆気に取られて、そんな姫をただ見守るしかなかった。



ひめさま



声をかけると、それがなおさら笑いを誘うのか、姫の肩の揺れが激しくなっていく。



また、すのこに出ておられるのですか?



その時ふいに殿方の声がした。


慌てて几帳を姫の周りに立て掛ける。


父親であってもおとなう前には文を出すものを、この姫にしてこの父あり。


いつもその訪問は突然だった。



姫にお願いがあって参ったのです。



父は穏やかにそう切り出した。



梅雨が明けた頃に、北の方を湯治に連れて行っては貰えませんか。

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