§魂呼びの桜§ 【平安編】
姫は急いで袂で顔を隠した。


公達に顔を見られないようにすることが、貴族の姫の習い。


それを知っていように、その公達は姫に近寄りこう囁いた。



お姿を拝見させてはいただけませんか

月読の姫



この公達は何を言うのだろう。


父や弟以外の殿方とこれほど接近したことはなく、姫の体は恐ろしさのあまり小刻みに震えている。



ああ、震えておいでですね

私を恐ろしいとお思いか……



公達は嘆くようにそう言った。


いいえ、あなたがあまりにお美しいので、それが怖いのです。


姫はそう伝えたかった。


けれど口が渇いてしまい、思うように動かない。
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