§魂呼びの桜§ 【平安編】
平安の都に、雨が降る。


梅雨を迎え、連日雨が降り続いていた。


若葉を濡らす雨粒。


それが集まり、築山に据えられた岩から小さな滝となって流れ落ち、池へと入る。


時折サギが来ては、池の鮒を突付いて行く。


遣り水が少し水嵩を増して、白い花びらを流していった。


そんな庭の様子を、姫は御簾を上げさせて眺めていた。


本来なら、決して人前に晒すことのない顔。


檜扇で隠しているといっても、貴族の姫としてはあってはならないこと。


それでも姫は、飽くことなく庭を眺めていた。


どうして雨は降るのかしら?


ぽつりと呟いたことを、傍らに控える女房は、自分に聞かれたと思ったのだろうか。



降るから、降るのです。

雨が降らねば、作物が育ちませんもの。


と生真面目に応えた。

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