恋の魔法と甘い罠
「ん?」



あたしの視線に気付いたのか、和泉さんはそう言いながらこっちを向いて首を傾げる。


まだ慎也さんとのことをはっきりさせてもいないのに、どうなるかわからない不安で気持ちをゆらゆら揺らしていてもしょうがない。


だから万が一のときのために、付き合うふり……というものをお願いしようと思ったけれど、いざそれを言おうとするとなんだか恥ずかしくなって口にできなくなった。


だって、ふりだとはいえ付き合うんだよ?


そう見えるように振る舞わなきゃならないんだよ?


あたしにそれができるのかなぁ……


なんて考えていると、あたしの言いたいことがわかったかのように、和泉さんの方からそのことを口に出してきた。



「付き合うふり……してみる?」


「……」



たとえふりだとしても、和泉さんの口から『付き合う』という言葉が出てくると、なんだか凄くどきどきしてしまい声を出すことができなくて……


その代わりに小さく、こくん、と頷いた。


その瞬間、和泉さんがふっと微笑んだ。
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