恋の魔法と甘い罠
残業後に乗ったエレベーター。


1、閉、の順にボタンを押して、疲れた身体を壁に預けるように凭れかけたとたん、



「セーフ」



溜め息混じりにそう言いながら、閉まりかけたドアから男の人が滑り込んできた。


その人は、ふぅ、と息を吐いたあと、今あたしの存在に気づいたように振り返った。


そして一瞬考えるような素振りを見せたあと、口を開いた。



『経理課の子だよね?』


『はい』



あたしは彼のことを知っていた。


営業課の課長、榊慎也(サカキ シンヤ)さん。


20代後半で課長という役職に就いている彼は、誰から見ても出世コースにいるのは間違いない。


仕事にはめちゃくちゃ厳しいけれど、それ以外の時間は凄く優しいらしい。


そのギャップがまたいいと言って、女子社員にはめちゃくちゃ人気がある。


まあ、誰もが見惚れるくらいのイケメンっていうのが、一番の人気の理由かもしれないけれど。


そんな人だから、経理課の中じゃいつも話題にあがっていた。


あたしも好きだったわけじゃないけれど、気にはなっていた。
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