ティラミス
ようやく着いたアパート。
実家から5時間かかった。

がらんとした、何もない部屋。
私の好きにできる部屋なのに、
うれしい気持ちに満たされるわけではない。
なんでだろう、などと思っていると、
初めてチャイムが鳴った。
ドアの向こうに立っていたのは、
実家やテレビで見慣れた緑の帽子の宅急便やさん。
男性の宅急便屋さん2人のおかげで、
何もない部屋がいくつかの段ボールで埋まっていく。

荷解きまで終えて、
初めて自分がものすごく疲れていることに気付いた。
お腹もすいた。
ごはんを用意してくれる母は、ここにはいない。
くたくたになって居室で横になる私を
気まぐれに指圧してくれるような父もいない。

何か食べるものを会にいかなくちゃ。

疲れきった体で外に出る。
まだ、羽織るものが欲しい初春の風に吹かれる。

引っ越した部屋での最初のごはんは、
コンビニで買ったサンドウィッチとティラミス。
全国チェーンのコンビニの味は、新潟も東京も変わらない。
マスカルポーネ風味のチーズクリームの甘さは、
体の疲れを取り去ってくれる。
引っ越しの日に蕎麦を食べることが普通だと誰が決めたのだろう。
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