偽りの恋人
透明なガラスで仕切られた課長のブースを見る。
涼しい顔をして銀フレームの眼鏡を中指で押し上げる課長が見えて、再びはぁ、とため息をついて画面に視線を戻した。
…よりによって、終業時間の10分前に。
しかも今日中に、なんて嫌がらせとしか思えない。
せっかく、今日は早く終わりそうだったから買い物でもして帰ろうと思っていたのに。
赤ペンのチェックが入った書類を忌々しく見つめる。
自業自得だが、課長を恨まずにはいられない。
元々今日中提出の書類じゃなかったのに、今日中だなんて。
バシバシとパソコンのキーに苛々をぶつけながら書類の誤字を直していると、終業のベルが鳴り響いた。
…あぁ、残業決定。