セックス·フレンド【完結】
退院の日だけは、どうしても外せない予約が入り、迎えには行けなかった。


代わりに、隆也の仕事仲間が迎えにきてくれることになったので、退院前日が、最後のお見舞になった。


不謹慎だけれど、あたしは、こんな日がずっと続けばいいと思っていた。

それゆえ、隆也の回復を素直に喜ぶことができなかった。


早く鈍った体を動かしたいと彼が言うたびに、恨めしい気持ちになった。


「さっきね、くる途中に屋台を準備してるのを見たの。もうお祭りの時期なのね。昨日も、どこかで花火大会があったみたい。美容室で音だけは聞いてたんだけどね」


なんとなしに言ったあたしに、隆也は、こう言った。


「花火、見に行こうな」


鼻の奥がつんと熱くなる。


たったこれだけのことで、今日までのことが、報われた気がした。



いつ行こうとは言わなかった。


あたしも、予定を取り決めたりはしなかった。



でも、そう言って微笑んでくれた彼の顔には、なんの陰りもなかった。



だから、まさか、これが彼と過ごす最後の時間になるとは思いもしなかった。
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