0の楽園
 彼女の返事を待っている間、
残りモノに喋りかけ続ける彼女を
これ以上、近所から
奇異の目で見られないよう
かばいながら道路に背を向けて
体育座りをしている後ろに陣取り
車と通行人から一つと一人をかばう。

 そうすると俺の影が
彼女と残りモノにかかってしまうようで
彼女は鬱陶しそうに顔を真上に向け
僕と目を合わせる。

「カイ、ワ」
「…ぇあ?」

 はじめ俺は彼女が
なぜ言葉を発したのかを疑問に思い
自分が数分前に質問をしていて
その答えが
今更返ってきたのだと気づく。

 そして次に単語の意味を理解できずに
無意味な音を口から発して立ちつくしたが
彼女の顔がまた猫に向けられるのと同時に
漢字へ変換する事に成功した。

「……会話」

 成功したものの
納得することまでは上手くできなかったようで
自分が反復した言葉を飲み込んで
むりやり身体の中に押し込んで
納得できたふりをした。

 でも”会話”はきっと
人間と人間の間でコミュニケーションをとるときに
必要とする行動で猫
ましてやお亡くなりになっている相手に
フル活用するものではないと
俺は今までそう思って生きていた。

 でもまぁ日下部迷夢がそういうなら、
そういう使い方もあるのだろう?
っていうか現にしてるし
彼女に常識とかそういうのは
通用しないので言葉にはしないで黙っておく。

「……死んだ」

 日下部迷夢は唐突にそう言って立ち上がると
家がある方向へ歩き始める。
いやいやずっと死んでただろ?とは
つっこまない
だってそれは無意味だから。
彼女の後姿よりもパンチのきいたモノを
見ていたせいで今まで気がつかなかったが
彼女はだいぶ可笑しな格好をしていた。
っていうか、彼女の発言のほうが可笑しいか?



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