秘書室の言えなかった言葉
「それは?」


そんな私を倉木は優しく見つめる。


「それは……、周りの女の人が倉木を見て顔を赤くしたり、“カッコイイ”って言っているのが嫌だったの。それにさ……、付き合ってからも、倉木、告白されているし」


いい歳をして、子供みたいな事を言っているのはわかっている。

だけど、これ以外、答えようがなかった。

そんな私に


「告白はちゃんと断っているだろ?」


倉木は呆れず、優しく答えてくれる。


「わかっているよ。わかっているんだけどさ……。他にいい人がいたら、倉木、その人にいっちゃうんじゃないかって、考えたら不安で……」


倉木は私を大切に想ってくれている。

なのに、私が勝手に不安になっているだけ。

それがわかっている私は、気まずくなって俯く。

すると、今までふわっと優しく包み込んでくれていた倉木の腕の力が強くなり、ぎゅっと抱きしめる。


「勝手に不安になるなよ。俺が好きなのは、園……、知里なんだから」


えっ!?

今……

名前で呼んだ?


今も私の事を“園田”と呼ぶ倉木。

まぁ、私も今もまだ“倉木”と呼んでいるけど。

だから、私は“好き”と言ってくれた嬉しさよりも、“知里”と名前で呼ばれた事に驚いた。


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