秘書室の言えなかった言葉
今まで、知里に嘘をつかれた事はない。

っていうか、知里は嘘をつくのが下手だ。

本人は嘘を吐いているつもりでも、顔や態度に出ている。

まぁ、嘘と言っても今まで吐かれたのは俺を喜ばす為の隠し事。

だから、俺は知里に嘘を吐かれたなんて思っていない。


だが、今の知里を見る限り、

“二人じゃない”

と言っているけど、確実に怪しい。

今、ここに俺と知里、二人きりなら、無理矢理にでも正直に言わせた。

だけど、今は真人も居るし、それ以前に会社だ。

この事は後でちゃんと聞く事にしよう。


「そっか」


そう思った俺は、とりあえず引き下がる事にする。


俺は佐伯さんに憧れていた。

もちろん、本当だ。

でも、それは“仕事の面”で。

あの頃の佐伯さんは、結構コンパとか行っていたし、いろんな女の子と食事に行っていた。

しかも、あの頃……

佐伯さんは「可愛い彼女がいる」って言っていた。

俺は、彼女がいるのに他の女の子と二人で食事に行くなんて考えられなくて、一度、佐伯さんに聞いたんだ。


「彼女はそれを知っているんですか?」


って……


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