秘書室の言えなかった言葉
知里と佐伯さんの関係。

気にならないって言ったら嘘になるけど、同じ聞くなら、知里の言葉で聞きたかった。

知里は、佐伯さんの秘書をする事になって、引き継ぎとかで忙しそうだった。

俺は俺で忙しかった。

だからってのもあり、なかなか時間が取れない。

佐伯さんが本社に戻って来た日から、知里と佐伯さんの関係を気にしていたのに。

そのままにしておいたのは俺なんだけど……

だけど、やっぱり知里から聞きたかった。


「俺達、嫌いで別れたわけじゃないし。ちゃんと話をして、また……」

「知里は今、俺の彼女ですから」


そう言い残し、俺は立ち上がる。


佐伯さんは上司。

だけど、今はそんな事関係ない。

そして、知里のジャケットと鞄を持ち、空いている手で、知里の腕を掴み立ち上がらせる。


「知里、帰るぞ」


佐伯さんの勝手な言葉で余裕を無くした俺は、周りに後輩達がいるにもかかわらず名前で呼ぶ。

俺の言葉、態度に後輩達は驚いていたけど、今はそんなの関係ない。


「きゃっ」


立ち上がった瞬間、ふらついた知里は俺の胸にぶつかる。


「行くぞ」


そう言って、知里の腰に手を回し、支えるようにして、その場を去った――…


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