秘書室の言えなかった言葉
昨日の歓送迎会は英治も誠司も参加する。

英治は誠司を慕っている。

だから、きっと二人で話したりするだろう。

もしその時に、誠司が私との関係を英治に話したら……

英治に知られたくない私は、そう考えると飲まなきゃその場に居られなかった。

シラフで、その場にいるのは怖かったんだ。


「何で、あんなに酔うまで飲んだんだよ」


英治は少し怖い顔をして私を見ている。


「……飲みたかったから?」


本当の事は言えない私は、どう答えたらいいのかわからず、適当な答えを探す。


「飲みたいって限度があるだろ」

「ごめん……」


私と英治の間に気まずい空気が流れる。


「なぁ……」


英治が沈黙を破り、話し出す。


「ん?」

「何で“飲みたい”って思ったんだ?」

「えっ?」


何でって……


「何で?」


英治に今まで一切隠し事をした事はないし、英治も何でも話してくれる。

だから、隠し事をしているのは、すごく気まずい。

誠司の事は言えないと思ったのは私。

“気まずいけど言えない ”と勝手な事を思っているのはわかっている。

だけど、一度隠し事をしてしまったら、その事は隠し通さなければならない。

かと言って、飲みたい理由も他には思い付かず、私は聞き返してしまった。


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