秘書室の言えなかった言葉
「大丈夫って……。やっぱり今でも佐伯さんの事が好きなのか?」


英治の冷たく言い放つ声が聞こえる。


「えっ?」


なんで、そう思うの?


誠司の事なんて、英治を好きになる前に、気持ちの整理はついている。

誠司の事なんて、何とも思っていないのに。

今まで、英治に私の気持ち、伝わってなかったの?

そう思うと悲しくなってくる。


多分、英治は何か誤解をしているんだよね?

だから、その誤解を解こうと思うのに、言葉が出てこない。

すると、突然、視界が暗くなる。


「なんで佐伯さんなんだよ。俺じゃ、だめなのかよ……」


私を力強く抱きしめ、英治は怒ったような強い口調で言う。


私、誠司を好きだなんて言ってないよ?

私が好きなのは……


そう言おうとした時


「俺の側に居てくれよ……」


今度は、英治の弱々しく消えそうな声が聞こえてくる。

そんな英治に、私は無意識にそっと腕を回す。


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