抹茶な風に誘われて。
 施設にいた頃から付けていた一言日記帳――今日の欄には、ミニひまわり、と書き入れる。予定帳を兼ねているから、先に記されているのは『茶道教室』の文字。

 静さん宅、と書いた部分が我ながら小さく、照れたような字になっていて、恥ずかしくなった。

 付き合うことが決まってから、初めて出会った日に遡って静さんの名前を書き入れてはみたものの、彼氏だとか、恋人だとか、そんな風に紹介するのも照れてしまって、まだ誰にも付き合っていることも話せていないのだ。

 天然パーマでふわふわボリュームが出てしまう髪をブラシで梳いていたら、携帯電話がメールの着信を知らせる。

『おやすみ』

 短いけれど、その特別な挨拶を送ってくれた静さんの表情を想像して、私は笑顔になった。

「……よし、決めた。月曜日こそ、咲ちゃんたちに話そう」

 声に出したのは、決意を鈍らせないため。

 新学期でみんなに再会したら、ちゃんと言うんだ。

 静さんと付き合うようになったこと。今まで黙っていたことも謝って――びっくりされるだろうけど、ちゃんと話せばきっとわかってくれるはず。

 おやすみなさい、と返信して、私は幸せな気分でベッドに潜り込んだのだった。


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