抹茶な風に誘われて。
 通りを歩いている人たちも注目していて、みんなが見つめているのは数メートル先の人だかり。

 背が低い私には、立っている人たちの頭が邪魔で何があるのか見えない。

 けれど目で見る前に聞こえてきたのは、甲高い声だった。

「この泥棒ネコっ!」

 そんな耳慣れない言葉よりもまずびっくりしたのは、それが聞き覚えのある声だったこと。

「あんたみたいなキャバ嬢にタカシが本気になるわけないでしょ! わかったらさっさと言いなさいよ! もう二度とタカシに会いませんって!」

 驚いて人だかりに近づこうとする私の周りで、ハナコさんたちが鼻で笑う。

「やーね、よくやるわあ、こんな人前で」

「よくある男がらみのもめごとってやつでしょ」

 行きましょ、と引っ張られそうになって、私はあわてて首を振る。

「ちっ、違うんです。あのっ……」

 なかなか人を掻き分けて近づけないけど、続いている罵りあいの声はもう間違いなかった。

「何よ、キャバ嬢キャバ嬢ってバカにして。じゃあそのカッコ何なの? ガキが無理して背伸びしてんの、バレバレなのよ。こんなとこで場違いにいきがんのはやめといたほうがいいんじゃない? 言っとくけど、タカシは自分から近づいてきたんだからね」

 やっと人だかりの中、一番前までたどり着いて、私が見たもの。

 それは、頬を赤くして派手な女の人につかみかかっていく優月ちゃんだったのだ。

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