抹茶な風に誘われて。
「いつの間に男に戻っちゃったのお? 姉さんったら」とか「まーっ、真っ白い肌! しかも何この子! スッピンでこの滑らか肌? 許せないわあっ」とか「ちっちゃーい、若-い、うらやましーい! お金出しても手に入らないもんばっかりじゃないのよっ、くやしい!」とか口々に叫ぶ不思議な男の人たちに囲まれて、私はもう目がちかちかしてしまって言葉が出ない。

 そしたらハナコさんがなぜか嬉しそうに笑いながら、皆さんに紹介するみたいに私の肩に両手を添えた。

「ほらー話したでしょ? これが例のかをるちゃんよ。あの静ちゃんのカ・ノ・ジョ」

 うふ、とハートマークが付いていそうな声音でハナコさんが言った途端、女装の『お姉さん』たちはさっきまでの怖い顔が嘘みたいに目を見開いて騒ぎ始めたのだ。

「えーっ、あの噂のお?」

「歌舞伎町の伝説の女泣かせをついに本気で射止めたっていう!」

「あの静さまに年貢を納めさせたっていう、かをるちゃん!?」

 やだあ、とびしばし背中を叩かれて、逃げ腰になる私。

「え、えっと……私、配達があるので……」

 ようやく口を挟んでみたつもりだったけど、声が小さすぎてお姉さんたちには聞こえなかったらしい。

 ますます興奮状態で、今度は笑顔になった皆さんが私を取り囲む。

「ちょっと、どうやって射止めたのか聞かせてちょうだいな」とか「そうよそうよ、まだお店開ける前だからちょっと遊びに来なさいよ」とか「お姉さんたちが可愛がってあげるわ」とか順に腕を引っ張られたりして。

 頼みの綱のハナコさんまで、「あっ、それいいわね! すぐそこだから休憩してらっしゃい! ジュースでよければ乾杯しちゃいましょ」なんて先頭を行き出して、問答無用で連れて行かれそうになる。

 ムーンリバーの看板を背に、なんとか事情を説明しようと口を開いた瞬間。

 ガシャン、と大きな音がして、全員が立ち止まった。
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