抹茶な風に誘われて。
「静さん――」

 思い浮かべたその人に、こんな風に来てもらえるなんて夢にも思わなかったから。

 なんともいえないくらいに嬉しくて、噛みしめるように名前を呼ぶ。

 私の声と同時に、静さんが何かを言った。

「ひ、ひいっ……」

 背中にいた私にはよく聞こえなかったけれど、とどめのように言われたその一言でか、その人はあわてて立ち上がり、出口から逃げていった。

 騒ぎに気づいたクラスの子たちや、お客さんたちがやってきて、私が静さんの背中から離れたちょうどその時、優月ちゃんが歓声を上げるのが聞こえた。

「静先生っ! 来てくれたんですね! あたし、嬉しい……!」

 優月ちゃんの高い声で、一気にざわめくのはクラスメイトのみんなだった。

 何事かと見守るお客さんの視線にも、優月ちゃんのキラキラした目にも動じることなく、静さんはただグレーの瞳を彼女からそらし、振り返ったのだ。

「静、先生……?」

 無邪気な瞳で静さんを追う優月ちゃん。

 そして見つめるたくさんの瞳にどうしたらいいかわからなくなって、私は俯く。

「悪いが、俺はこいつに会いに来たんだ」

 静さんの低い声が、はっきりとそう言った。

 びくり、と肩を震わせた私に片手を差し出して、静さんが私を呼んだ。

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