抹茶な風に誘われて。
「私、付き合うってこともどういうことかわからなくて、いつもどきどきして、静さんと一緒にいるだけで嬉しくて――そんな気持ちだけで精一杯だったのに、それ以上いろんな感情があふれちゃったら、もう頭がパンクしちゃいそうで――だから、静さんに向き合うことができませんでした。ごめんなさい!」

 やっとちゃんと謝ることができた。

 少しほっとして顔を上げたら、グレーの瞳が呆然と私を見下ろしている。

 ――あ、あれ? 私、何かおかしなこと言ったのかな。

 また失敗したのなら、どうしたらいいんだろう、と再び混乱に襲われかけた時、静さんがぽつりと言った。

「それだけか?」

「はい?」

 今度は静さんが混乱する番だったらしい。

 いつもの大人な表情からしたら嘘みたいに、まるで少年のような顔で静さんが笑ったのだ。

「なんだ……俺はてっきりお前が付き合いをやめるつもりなのかと。いや、その――駄目元のヤツが、やたらとけしかけるから、だな」

 あわてたように言い訳をする。

 そんな静さんを見たのも初めてで、私は思わず吹き出してしまった。

「笑うことないだろうが。くそ――この一条静を掌の上で転がしやがって」

「て、掌の上? 転がす……? どういう意味ですか……?」

 きょとんとしたら、静さんが盛大なため息をつく。

 落ちてくる長めの前髪を鬱陶しそうにかきあげて、そのまま緑の低木が植えられた庭園を眺めた。

「あ、あの――静さん?」

 また何か怒らせてしまったのだろうか。

 急に不安が蘇ってきて声をかけたら、背中を向けていた静さんが振り返る。

「そんな捨てられそうな子猫みたいな目で見るな、というんだ。何日も連絡なしでいられるかと思ったら、こうしてすがりつくような顔をする。こんなに読めない女、初めてなんだよ」

 なぜか恨みがましい瞳を向けられて、迷ったあげくとりあえず謝ることにした。

「ご、ごめんなさい」

「許さない」

 即答されて、唖然とする私。困ったまま見つめていたら、静さんがあきらめたように息をはいて、笑った。
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