抹茶な風に誘われて。
「許してほしければ、こっちに来い」

 顎で自分のいる窓際を指し示す静さんに、戸惑いながらも言うとおりにする。

 カコン、と鳴ったししおどしの音だけが妙に爽やかで、一瞬そちらに気をとられた瞬間、手首を引かれてバランスを崩してしまった。

 倒れこんだ先は静さんの胸の上で、畳の上に二人で横たわった形になって――私はあわてて起き上がろうとする。

 でも静さんは手首を離さず、逆に抱き寄せられた。

 真剣な色をしたグレーの瞳が私を映して、心臓がすごい勢いで高鳴り始める。

 無言の静さんが体を起こし、体勢を変えて私を下にする。

「静……さん?」

 不安になって呼んだ名前も届いているのかいないのか、再び近づいてきた唇を受け入れる私。

 何度も繰り返されたキスだけれど、まだ慣れることができなくて少しみじろぎしたら、それを合図にしたかのように、唇が首筋へ移動した。

 首筋から耳へ、そして鎖骨にまでおりてくるその感触は初めてのもので、どきどきしながらもされるがままになっていた。

「かをる」

 突然名を呼ばれて、ためらったような顔の静さんが「いいのか」と訊ねる。

「――何が、ですか?」

 聞き返した途端、静さんの瞳が本当にまん丸になって。

 今度こそあきれ返った表情をした静さんが、眉間に手をやって大きなため息をついた。

 それだけで終わればよかったのに――正直な私のお腹はまた空腹を訴える。

 ぐうう、とさっきよりも大きく鳴ってしまったお腹の虫に私が赤面するのと、静さんの笑い声が弾けるのとが同時で。

「もういい、とりあえず食事にしよう。うちの子猫は腹が減ってたまらないらしいからな」

 ひとしきり笑った後に、静さんが言った。
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