抹茶な風に誘われて。
「そうなの。それも黙ってるのを苦労してようやく昨夜聞きだしたことなんだけどね」

 かをるの話によると、文化祭二日目、最終日の日曜日からそれは始まったらしい、と続ける。

 登校してみると、みんなが自分と顔を合わせようとはしなかった。

 挨拶をしても、文化祭の作業のことを訊ねても、誰も何も言葉を返してくれなくて、結局それは週の明けた水曜現在も続いているのだと。

「誰なのかはガンとして話してくれないんだけど、どうも一人の子が先導してやってることらしいの。話しかけて振り向いてくれた子も、その子に睨まれてまた黙っちゃったんだとか、少しもらしていたから」

「一人の……」

 呟く俺にまた頷いて、藤田葉子は大きなため息を吐き出した。

 茶菓子に出した羊羹にも手をつけず、かをるのことが心配でならないことは表情からもよくわかる。

「理由を聞いても教えてくれなくて、自分が悪いんだとしか言わないのよ。それで色々考えてみたけど、やっぱり、その――他に原因が思いつかなくて」

 そこまで言って、ようやく俺と目を合わせた彼女。

 もじもじと手を組み合わせる仕草を見ながら、俺も口を開いた。

「俺のこと、か……」

 おおかた、無下にしたあの女――名前さえも覚えていない、かをるの友人だったはずの奴がやってることなんだろう。

 文化祭に乗り込むような形になって、しかも無理やり連れ去ったわけだから、そういう反応が返ってきてもおかしくはない。

 かをるが自分とのことを話せなかった、と悔やむように言っていたし――そう考えを巡らせながらも、あまりのくだらなさについ苦笑してしまった。


< 171 / 360 >

この作品をシェア

pagetop