抹茶な風に誘われて。
 ダン、と大きく響いた音にびっくりしたように、ようやく言葉を止めた優月の顎をもう片方の手で持ち上げ、ぎりぎりまで顔を近づけてから笑う。

「たかだか十七、八程度のガキが、いつまでもこの俺に対抗できると思っているのか」

 こんな時、自らのグレーの瞳はひどく冷たいガラス玉のように見えることは知っているから――全て計算づくで、せいぜい魅力的に見える微笑を浮かべてやった。

 大人を本気で怒らせたらどうなるのか、身を持って知らしめてやるために。

「なんならお前のクラスの女ども全員に聞いて回ってやってもいいんだぞ? お前の言いふらした大嘘と、本物の真実とどっちが勝つのか、勝負したら面白いだろうな」

 ちなみに、と怯え始めた瞳をまっすぐ射抜いて、続ける。

 囁いた極めつけの言葉に、その場に落ちていたバッグをあわてて拾って、部屋を出ようとする。

「月曜だ。月曜日までに、かをるが笑顔を取り戻さなかったら……その時は覚悟しておくんだな」

 年相応の少女の顔に戻った優月は、俺の真剣な瞳に縮み上がって、パタパタと駆けていったのだった。
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