抹茶な風に誘われて。
「も、もしかしてかをるが――? そうでしょ? かをるが頼んだんでしょ! 違うの、あたしはいじめなんか――そっ、そう! やってたのは他の子たちよ。かをるがどうせ、あることないこと先生に言いつけたのね? あたしはやってない! し、信じて、先生――!」

 必死な目つきで言い募る顔を、黙って見下ろす。

 感情の一切を見せない瞳に戸惑っているのか、それでも強気で歩み寄ってきた。

「悪いのは根性だけじゃなく、往生際も、ってことらしいな」

「え――」

 はっきりと言ってやったにもかかわらず、まだ理解できない顔を向けられて、俺はスーツの胸ポケットに手を入れた。

 さっき万札を差し込んだ時に回収した、携帯電話。

 通話中になっている画面をわざと見せるようにしながら、つなげてあるアダプターから取り外したのは、ICレコーダー。

 そのボタンを操作して、優月の真正面に掲げてみせた。

『そうそう、あたしのクラスにもいるの。天然装ったような、ムカつく女がさー』

 聞こえてきたのが自分の声だとわかって、大きな瞳がたちまちうろたえた色を浮かべる。

『友達が好きになった男を次から次に奪っては、あたしは何にも悪くありませんって顔してすましてんの。サイテーでしょー? みんなの前で嘘ばっか並べてさ、純粋そうな涙で訴えるから、男なんてコロッと騙されちゃうわけ。あんまりやり口がひどいからさあ、今、みんなでハブにしてやってんだ』

 しっかり録音された楽しそうな笑い声まで聞かせてから、停止ボタンを押した。

 無言で唇を噛みしめていた優月が、「ち、違う……これはかをるのことじゃ――」と思いついたように顔を上げる。

 それ以上聞くのもうんざりして、壁に強く手をついた。
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