抹茶な風に誘われて。
「もてあそぶ、ねえ――どういう行為がそれを指し示すのか、具体的に教えていただきたいですね、ご立派な先生方」

 機嫌の悪い時ほど、慇懃無礼な敬語が口から滑り出る。

 そんな俺の癖など知りもしない教師たちは、顔を赤くして憤慨した。

「どっ、どういう行為だと? よくもそんなわざとらしい愚問を――そんなこと、聞くまでもないだろう!」

 並べられた机を叩き、叫んだ学年主任。

「そっ、そうだ! こんな奴のために教え子が退学の危機にさらされるなんて、許せないことです」

 そうでしょう、とかをるに向かって声を荒げる担任教師。

 興奮を示すように揺れる、安っぽい水玉のネクタイを眺めつつ、肩をすくめた。

「ああ、思い出した。不純異性交遊――でしたっけ。例えばこういうこと、でしょうかね」

 にやりと笑って、袂から取り出したものを、ピン、と教師の前に弾いてみせる。

 ちょうど目の前に滑り落ちた写真を、訝しげな顔で拾い上げる若い教師。

 メガネの奥の瞳がわかりやすく動揺する瞬間を見届けて、俺は続けた。

「教育者たる潔癖な大人たちがこういうことをするのは、立派に不純と呼べるのでは――? まあ、相手が未成年かどうかという微小な差はありますが」

 俺の言葉が続く間にも、見る見るうちに青い顔になる学年主任と担任。

 きっちりその二人ともが映っている写真の背景には、キャバクラ、ソープ、云々の派手派手しい看板。

 ちょうど入っていこうとしている横顔は見事に緩みきって、赤い頬をしたただの酔っ払いにしか見えないものだ。

 その店がどんな場所なのか知っている藤田葉子と、知らないかをるが、それぞれ別の理由で目を丸くしている。

さすがにプロに頼むと望遠も画質もいいな――なんてどうでもいいところに感心していた俺を、二対の動揺しきった瞳が捉えた。
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