抹茶な風に誘われて。
 午後四時きっかり、かをるから聞いた校舎二階の一室。

 がらりと扉を開けた俺の姿に、揃って向けられた驚きの目線。

 教師二人とかをる、そして藤田葉子まで――今日の舞台の出演者たちは、そうともしらずに座った体勢のまま、俺を見上げた。

「なっ、なんだね、君は――ここは、部外者以外立ち入り禁止だぞ! すぐに出て行きたまえ」

 気を取り直した高齢の教師が立ち上がる。

 それに勇気を得たのか、「そうだ、出て行きなさい!」と口ぞえするもう一人の若い教師。

 どちらの言葉にも動じず、スタスタと中へ踏み込む俺を見て、かをるが驚いたように俺の名を呼んだ。

「静……? そうか、君が彼女を――」

「未成年をたぶらかすとは、立派な犯罪だぞ! 一体どういうつもりなんだね!」

 机の上に広げられていた証拠写真らしきものの中から、映っている俺の姿をみとめて、叫ぶハゲオヤジ。

 そのでっぷりと太った腹をちらりと見ながら、俺は微笑む。

「これは初めまして、学年主任の木下先生。そしてこっちは担任の美作先生、だったかな。いつもかをるからお話は伺ってますよ」

 自分の容姿を引き立たせることは自覚済みの、渋めのグリーン。

 わざと着くずした俺の着物姿をじろじろと上から下まで眺めた学年主任のほうが、ふん、と鼻息をもらす。

「馴れ馴れしい言い方を……ホストふぜいだかなんだかしらないが、君のような輩と話をする気はない!」

「そうですよ、未成年の、しかも一回り以上年も離れた高校生に手を出すなんて、破廉恥極まりない。純真な少女をもてあそぶようなことしか考えていない最低なクズなど、警察に引き渡してやりたいくらいだ」

 常に学年主任の表情を気にしながら、担任教師が遠くから言い放つ。

 はらはらと事態を見つめる藤田葉子と、今にも泣きそうなかをるの瞳に微笑んで、俺はゆったりと腕を組んだ。
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