抹茶な風に誘われて。
「では、かをるの処分を問うようなことは今後一切しない。もちろん退学なんてもってのほか。奨学金も今までどおり受け取れる、ということでよろしいですよね?」

 うなだれるように二人が頷いたところで、今までギャラリーに徹していた藤田葉子が立ち上がり、拍手を始めた。

 力なく目線を上げた教師たちの前で、いたずらっぽく俺に向かって舌を出したりするお茶目ぶりだ。

「あ、あの……こ、これは一体どういう……せ、静さん? 私、頭が真っ白で何も考えられなくて――」

 頬を赤く染めたまま、まるで頭から湯気でも出そうな顔をしたかをるが、生活指導室を出るなり助けを求めてくる。

 予想済みの反応に笑う俺の隣で、藤田葉子が突然お辞儀をした。

「本当にありがとう、一条さん。かをるちゃんのこと――よろしく頼みます。親代わりとして、お願いするわね」

 一瞬冗談のつもりかと思ったが、彼女の瞳は本当に潤んでいる。

 頭を上げてくれるように言って、軽く肩に触れたら、丸いメガネを外して勢いよく涙を拭った藤田葉子は、今度こそいつもの笑顔を浮かべた。

「見事なお手並みだったわ。もう爽快すぎて、吹き出しそうになるの必死で堪えてたのよ?」

「それはどうも、お褒めに預かり光栄です」

 ふざけた返答で微笑んでみせる俺と、さもおかしそうにまた笑い始める藤田葉子。

 二人のやり取りに全くついていけていない人物が、約一名――「せ、説明してくださいったらー!!」とついに叫んだかをるの両隣で、俺たちはまた笑った。

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