抹茶な風に誘われて。
「さ、咲ちゃん……? 来て、くれたの?」

 奥から顔を出したかをるの声に、俯いていた頭を弾かれたように上げて、河野咲はひどく緊張したような顔をした。

 何かを言うべきかどうか迷ったような顔をしていた彼女が、意を決したように半分閉じたままの引き戸の影になったほうを向く。

「ほらっ、早く――!」

 そう言って手招きをした後、見かねたように咲が引っ張り出したのは、新田優月だった。

 泣きはらしたような目をして、それでも憮然とした顔で俺からそらした瞳は、玄関先の壁を無意味に睨みつけている。

「優月ちゃんまで――どうしたの?」

 かをるの問いかけに答えたのは、隣の咲のほうだった。

 優月の腕を引き、無理やり一緒に頭を下げさせながら。

「かをるちゃん、ごめん……っ!」

 突然の謝罪を、全く飲み込めないでいるかをるの表情を痛々しげに見つめて、咲は唇を噛む。

 黙りこんだままの優月の顔をちらりと見てから、もう一度頭を下げた。

「優月を問いつめたら、この子やっと白状したの。市議会議員のお父さんに頼んで、かをるちゃんを退学に追い込むようなことしたって。あたし、実はさっき心配で生活指導室の前に行って、少し聞いちゃったから――それでおかしいと思って……いじめみたいなことに結局加担してたのも同じだし、あたしも同罪みたいなもんだから。本当にごめん、何も気づいてあげられなくて――優月のことも、止められなかった」

 ごめんなさい、と深々と下げた頭を戻そうとしない咲の隣で、居心地が悪くなったのか、優月が「だって」と小さく呟いた。

「べ、別に本気で退学にさせるつもりじゃなかったんだもん。あれだけいじめても、何しても笑って、透明な顔して――ちょっと謝っただけで簡単に許しちゃってさ。ムカつくんだよ、こういうタイプ。だからちょっと嫌がらせしてやりたかったの! いいじゃない、どうせまたひらりと恋人が現れて、ちゃんと助けてくれちゃうんだからさ。あんな情けないクソオヤジどもをあてにしたとこは、ちょっと失敗だったけどね」

 あはは、と声をあげて笑う優月を、かをるは見開いた瞳で見つめている。

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